檀家総会にてケンケンガクガク

 

 

檀家総会始まる

この村には約60軒の家がある。
そのほとんど全ての家が我が寺の檀家である。
今日の檀家総会には、そのほとんどが出席している。

 

檀家総会がはじまった。
僕がこの寺にいなかった約20年の間、毎日の檀家へのお参りは僕のお袋がやってくれていた。

 

葬式とかの、その他の大きな法要が檀家の中に起きた時は、知り合いの近在の寺の坊さんに頼んでいた。
この坊さんには、僕の寺の代理住職という形で世話になっていた。

 

というこれまでの経緯があって、檀家としては僕に正式に住職として早く、寺に住んで、毎日の檀家参りや、大きな法要にも出てもらいたいという旨の説明がリーダーからあった。
そしていつ帰ってくれるかということになった。

 

もちろん僕の前にいる檀家たちは、全員大なり小なり同じ気持ちでいるのだろうということは僕にもわかる。

 

 

僕はどう答えるか？

対する僕はどう答えるか？

 

今度は僕が話をしなければならない。
今更、寺から逃げていたとは言えない。

 

僕は次のように話した。
大学卒業後、当然、寺だけでは食べては行けないので、就職して、その流れの中で、だんだん寺から離れてしまい、挙げ句の果てに海外まで行くことになって、今になってしまって申し訳ない。
とまず謝った。

 

そして、最近東京へ帰り、自分で生計を建てる仕事を東京でしていて、その途中である。
というわけで、すぐに寺に帰ることはできない旨の説明をした。
寺の収入だけで、僕の一家が生活することは、到底できないと、いうことも話した。

 

渋い顔で僕の話を聞いていた、年配の大先輩の一人は
「坊さんは、金のことを言うたら、あかん！」
と一喝された。

 

一瞬、僕は何故か、これには返す言葉が見つからず、黙ってしまった。
そのうち、僕は苦しまぎれに、最近、僕が考えている一案のことを話した。

 

それは我が家の親戚の寺に、次男がいて、彼は仏教大学も出ているので、僕の代わりに僕の寺を継がないかという話をしていた。
彼は今は会社勤めをいていて、定年になれば、そして家族の承諾があればという条件で、考えてもいいという話をしてくれていた。

 

その彼を檀家たちも知っていた。
これに対しては、檀家側としてはイロイロな意見が出る。
「それはいつに分かる？」

 

分からない。
すぐではないし、家族がOKかもわからない。

 

「それでは解決にならない」
と檀家。

 

 

ケンケンガクガク

それからは、ケンケンガクガク、いろんな説が飛び交う。
「東京で何をしているか知らんが、早く村へ帰って住職をしたらええ」
と大先輩。
「そうや、そうや」
という声。

 

そうなれば僕も黙ってはおれない。
とにかく、僕は今は帰れないと言い募る。

 

夜はだんだん更けていく。
そのうちに、僕の後輩たちの中から、僕に同情するような声も、少しは聞こえるようになってきた。

これには嬉しかった。

 

そしてこんなふうに、檀家たちと直接話をしているうちに、問題が解決したわけでもないのに、僕の気持ちがかなり軽くなっているのに気がついた。

 

 

檀家総会も悪くはなかった

それは、僕に厳しい注文をつけてくる大先輩達も含めて、もちろん僕に同情的な言葉をかけてくれる後輩たちにも、なんだか、懐かしさも含んだ温かいものを感じたせいかもしれなかった。
この日の檀家総会は、もちろん結論は出なかったが、お互い20年ぶりに会って、思うことを言い合い、また会って話し合おうということで、気持ちよく別れた。

 

しかし僕には、この日から寺の問題が以前よりずっと近いものになってしまったことは確かだ。

 

 

 

プロフィール

名前はコウゲン。
田舎のお寺の長男に生まれ、坊主になりたくなかった僕は、とにかく遠くへ逃げたかった。
出来れば外国へ。
その夢が実現してパリに10年住んだ後、日本に帰国してジュエリーブランドを創業。