パリに着いて1年後【コウゲン編5】
目次
パリに着いて1年後
安定したパリでの貧乏生活
フランスに着いて約1年たって、我々の日本の会社も僕のパリで手配した商品でなんとか回転するようになった。
ただそれほど余裕があるわけではない我々の会社は送金はしてくるが、必要ギリギリしか送ってこない。
したがって、僕のパリでの生活はいつも最低生活だった。
日本にいる時から金の無い生活には慣れていたので、それは苦にならなった。
僕はファッション関係の古い書籍、その他デザイン関係の資料など、古本屋や蚤の市(のみのいち)などを歩き回って資金のある範囲で買っては日本へ送った。
そこまではよかった。
しかい、困ったのはいつも僕個人に残る金がないことだった。
日本の会社へ電話をかける時、手持ちの現金がないのでたいていはコレクトコール(相手払い電話)で電話をしていた。
普通はそれで問題なかったのだが、ある日いつものように郵便局に行ってコレクトコールで日本に電話をして、帰ろうとすると金を払えという。
僕はコレクトコールだったから払わないと言うと、交換手はそれは聞いていないという。
僕は払う金はない。
相手はそれでは困ると言う。
帰してもらえない。
しかたなく僕は知り合いの日本人に、事情を説明してその金額を持って来てもらって難を切り抜けた。
交渉下手
ということもあったりして、とにかく僕個人にももう少し金の余裕が欲しいという気持ちになった。
そんな時、僕はあることに気がついてきた。
色んな資料や古本を買いにいったとき、値段の交渉をするのだが、購入して帰ってから思うのはたいてい相手のペースで取引をしてしまったということだ。
例えば古本屋で欲しい本があって値段を聞くとする。
すると本屋の主人はその本についてとうとうとその良さについて話をする。
こちらは値切りたいので、もっと安くしてくれと言う。
主人はまたその本の貴重さについて話す。
そしてあなたには特別だと言って少しだけ安くしてくれる。
そこで僕はその本を欲しいので買ってしまう。
ほんの少ししか安くなっていない。
相手のペースだ。
また、パリの有名な蚤の市(のみのいち)にもよく行って、古い資料なども買った。
そんな時も同じようなことがよくあった。
ある屋台で面白そうな資料が見つかる。
「それいくら?」
と聞くと、相手はその商品の良さについてしゃべり出す。
そして
「貴方には特別安くしておこう」
と少し安くしてくれる。
そんな時も僕は帰ってから何かしら相手のペースで終わった、いう思いが残った。
いつも相手の言う値段に近いで買って、高い値段で買っているという思い。
相手のことを考えずにこちらの要求を伝える
そのうちに僕は気がついてきた。
買い手である僕ももっと言いたいことを、言うべきである。
特に蚤の市(のみのいち)のような所では決まった値段はないのだから、例えば「100フラン(当時はフラン)」と相手が言えばこちらは「50フランだったら買う」と言う。
とにかく思いきってこちらの希望価格を言ってみる。
その場合ダメならやめるつもりだ。
これは成功した。
時には話し合いで60フランになったり、70フランになったりする。
が今までとは全く違う結論になることが多くなった。
気分良く交渉事
とにかく考えてみると、僕は今まで日本のやり方でやって来て失敗してきたようだ。
相手の顔色を見たり、それを見ながら遠慮してしまう。
それが思いきった物言いの交渉を出来なくしてしまっていた。
ここフランス、いや、むしろ日本以外の世界では日本風のやり方ではなしに、こんな風にお互いがそれぞれ要求するところを、充分相手に伝える。
その上で話し合ってお互いに納得できる結論を見つけていく、と言うのが普通のやり方だと気がついてきた。
そうする事でお互いに気分を悪くする事も全くない。
この頃から僕は気分良く仕事上の交渉もできるようになった。
このような交渉の仕方をするようになって、ほとんど全ての点で相手との関係も良くなる場合が多くなった。
また余福として、本来もっと値段の高いものを安く値切れて、その分少しは生活費にも回せると言うプラス点も出てきたりもした。
プロフィール
名前はコウゲン。
田舎のお寺の長男に生まれ、坊主になりたくなかった僕は、とにかく遠くへ逃げたかった。
出来れば外国へ。
その夢が実現してパリに10年住んだ後、日本に帰国してジュエリーブランドを創業。
前回までのあらすじ
・ファッション資料を求めて、フランス移住【コウゲン編1】
https://imac-j.com/blog/france/1502/
・フランス移住後、ゼネストと仕事【コウゲン編2】
https://imac-j.com/blog/france/1506/
・パリでの初仕事~通訳事件【コウゲン編3】
関連情報
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