リヨンとギニョール人形劇【コウゲン編6】
目次
リヨンとギニョール人形劇
ギニョール人形劇、200年ほど前リヨンで始まる
前回、絹織物で栄えたリヨンにあるデザインアトリエに行ったことに触れたが、そのリヨンで僕は変わった経験をした。
200年前のリヨンは絹織物の生産地として栄えていた。
そこで働いていたこの地の人たちは、過酷な労働で苦しんでいた人もたくさんいた。
ちょうどそれはフランス革命の頃だった。
それを労働者の立場から批評したり、体制を批判したりする形で「ギニョール」という人形が活躍する人形劇をつくったムルゲという人がいた。
多くのリヨンの絹産業の中で、つらい労働条件で働かされていた多くの人々から、この人形劇は大人気となった。
やがて、ギニョールのような指人形を他の国々でも「ギニョール」と呼ぶようになる。
ギニョール創始者ムルゲ生誕200年記念行事リヨンで
パリへ住むようになって1年あまりたったある時。
知り合いのそのまた知り合いのAさんから
「リヨンへ行くので、案内をしてほしい」
という依頼がきた。
僕はちょうどリヨンのデザインアトリエに行く用事もあったので、その日に合わせてリヨンの駅で会うことにした。
僕はこのAさんには会ったことはない。
とにかく日本人だからわかるだろうと思っていた。
列車が到着して乗客が降りて来る。
複数の日本人がいる。
どれがAさんか探していると、向こうから
「Aです。よろしく」
とニコニコしながら挨拶してくるAさんがいた。
こちらも初めてなので挨拶をしていると、複数いた日本人がすべてAさんの周りに集まってくる。
約10人位いたと思う。
Aさんに話を聞いて驚いた。
日本の人形劇のグループがリヨンに
この団体は、日本の人形劇協会の会員の方達だという。
当時NHKでやっていた人形劇の「ひょっこりリひょうたん島」に出演している人たちもいたらしい。
今回リヨンへ来た理由は、リヨン発祥のギニョール(Guignol)という人形劇を始めたムルゲ(1769生まれ)と言う人の生誕200年ということだった。
リヨンのギニョール人形劇協会とも連絡を取って表敬訪問に来たという。
ついては、僕に通訳をしてもらいたいとのこと。
僕のフランス語ではとてもそんな大事な通訳はできないと断った。
が、Aさんは例のニコニコ顔で、もう通訳の手配もできないので、とにかく頼むの一点張り。
仕方がない。
やるしかない。
リヨンのギニョール人形劇協会も、今日は日本の人形劇グループが来るというので、歓迎交流会を準備しているらしい。
とにかく僕は追いつめられてしまい、行くしかないという状況だった。
交流会でのドタバタ
さてギニョール人形劇協会に着いて、初めはお互いに握手をしたり、カタコトのフランス語や英語で挨拶を交わし問題ない。
それから着席してそれぞれのリーダーからの挨拶の言葉が述べられる。
これが僕にとって大問題だった。
ベラベラ喋られるフランス語が僕にはわからない。
僕がフランス語がわからないというのは彼らもわかっている。
そこで始まったのは、推理ゲームのような会話劇だった。
僕がわからないと言うと、彼らは僕にわかるであろうフランス語をジェスチャーを交え、手を替え品を替え説明してくれる。
そんな風にして、いくつかはわかりそれを日本の人たちに伝える。
ずいぶんと時間がかかった。
そしてそれが終わると、今度は日本側からお返しの言葉が述べられる。
これがまた難しい。またフランス側と推理ジェスチャーゲームになる。
お互いにどれだけ正確に、理解できたのかはわからない。
恐らくトンチンカンな理解もあったかもしれない。
しかし、とにかく賑やかで、笑い声の絶えない愉快で親密なドタバタ交流会がなんとか終わった。
翌日、僕はデザインアトリエで用事を済ませてパリへ帰った。
プロフィール
名前はコウゲン。
田舎のお寺の長男に生まれ、坊主になりたくなかった僕は、とにかく遠くへ逃げたかった。
出来れば外国へ。
その夢が実現してパリに10年住んだ後、日本に帰国してジュエリーブランドを創業。
前回までのあらすじ
・ファッション資料を求めて、フランス移住【コウゲン編1】
https://imac-j.com/blog/france/1502/
・フランス移住後、ゼネストと仕事【コウゲン編2】
https://imac-j.com/blog/france/1506/
・パリでの初仕事~通訳事件【コウゲン編3】
https://imac-j.com/blog/france/1650/
・リヨンでの発見【コウゲン編4】
https://imac-j.com/blog/france/1768/
・パリに着いて1年後【コウゲン編5】
https://imac-j.com/blog/france/1773/
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